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#1

どうしようかなぁ。

と、つぶやいてみる。どうにもならないんだけど。

どうしようかなぁ。

言葉が上滑りしてるよ。本当にどうしようもない。まったく大丈夫じゃない。なんでこんなことになったんだろう。なんて事を考えていること自体がもうおかしい。

現実がどんどん自分から離れていってる。なるようにしかならない。と言い聞かせてもどうしても現実が自分の中に入ってこないよ。現実が僕のキャパシティを超えてる。でも、僕がやらかしたこと事の結果が今なんだ。間違いなく。現実。

そんなつもりじゃなかった なんて陳腐な言い訳にしか過ぎないことは僕にだってよく分かってる。したくてあんなことをするヤツは大抵まともじゃない。間違いなく。

なんで逃げちゃったんだろ。現実はどんどんひどい方向へ流れていっている気がする。ものすごくあせっているんだろう、僕は。でもそのあせりすら実感できない、今の僕は本当にどうしてしまったんだろう。

怖いなぁ。

あ、やっとそれっぽい言葉が出てきた。八方塞、とか、四面楚歌、とかってこういう事を言うのかな。10年後に僕は懐かしく思い出すのかな。今のこと。それとももうそんな先、僕にはないのかな。
ああ、10年後より今だよ今。どちらにしても、僕は覚悟を決めなくちゃいけない。今、この状況をどうするべきなのか。最良の方法を考えなくちゃいけない。


警察はすぐそこまで来てる。もうすぐここまで来るだろう。
僕に逃げ道はあるのか? 僕は逃げるべきなの? それとも捕まって全部認めるべき?「べき」ってなんだろう。見つけ出すのは、「べき」じゃない。僕の、本心だ。僕は今、どうしたがってるんだろう。逃げたいのか?逃げるのが不可能だからここにいるのか? そうだとすればそれはすごく格好悪い。やだなぁ。なんだか何も考えなしにやってしまったみたいじゃないか。そんなことないのに。

そう、僕は納得したうえであの子を殺したんだ。殺そう、殺したい、と思って殺したんだ。それは間違いない。そのまま警察に行くつもりだったんじゃないか。僕は。なんでこんなところで怖がっているんだろう。

僕だって殺したくなかった。死んでほしくなんか、なかった。僕はあの子を愛してた。あの子のためだけを思って必死になって考えたんだ。考え抜いたろ?僕。そして、殺した。あの子の望むままに。望むとおりに。悪い事なんかしてない。なぜ僕が追われる?なぜ逃げる?

追われたから逃げたんだ。それはわかる。すごく単純。明確。
ああ、あの子のあの言葉は本心だったのだろうか。それとも僕の勘違いだったのかな。でも僕たちは分かりあってたはずで、あの時の僕にはあの子のあの言葉の真意には確信を持ってた。今は分からない。何もわからない。あの時僕は、どうしてその真意を信じて疑わなかったんだろう。あの時の僕のことがもう僕にはわからない。そして、あの子はもういない。死んじゃった。僕が殺した。

会いたいなぁ、あの子に。もう一度触りたいなぁ。
最期の時、僕があの子に絡まってるチューブを、全部、取り外した時。あの子の顔を、僕を見る目を、僕は覚えているよ。とっても優しい目をしていたんだ。あのときなんでぎゅって抱きしめなかったんだろう。うん、そうだ。確かに「ありがとう」って言ってたよ。声なんか出せなかったんだけど。あの子。でももしあの時僕があんなことしなければ、きっと今日だって僕はあの子に会いに行ってさ、あの子の顔を見ることが出来たんだ。もう出来ない。僕は今、あの子に無性に会いたい。あの子の姿が見たい。

あの子に会いたいのはあの子のせいじゃない。でも、あの子に会えないのは、僕のせいだ。

あの子は僕を許してくれているのだろうか。僕は僕を許しているのだろうか。僕は僕を許せない。でも僕は僕が可愛い。どうしようもなく。絶望的なまで。本心、僕は捕まりたくない。

僕は後悔してる。僕はあの子を殺さなきゃよかったと思ってる。そして僕は捕まりたくない。そして僕は、まだあの子の事を愛してる。どうしようもなく。手に入れてそのままにしておきたかったのになぁ。なんで病気になんかなったんだ。なんで僕より早く死んじゃうんだ。なんでなんだ。あの子はずるい。君は、とっても、ずるい。僕は君とずっとずっと一緒にいたかっただけなんだ。ずっと。僕が死ぬまで。

 君のために君を殺した。君には会えなくなるし僕は犯罪者だ。君のためにしたのに僕には何もいいことがない。最悪だ。ああもう逃げられない。捕まるしかないのかな。捕まったらどうなるのかな。でももう、僕は疲れた。世界のぜんぶが僕に意地悪してる気分。ねぇ、僕をいじめてそんなに楽しいかい? 神様。

警察がそこまで来たよ。もう逃げられないみたいだ。僕はどうする? どうしたい? あの子に会いに行こう。僕にはきっとそれしかない。もう面倒くさい。考えたくない。なんで気づかなかったんだろう。あの子に会う方法があるじゃないか。

僕は、飛ぶ。
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