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S君編#1

A君と珍妙なラブストーリーを繰り広げている間、S君という彼からもアタックもどきを受けていた。これが人生に一度は訪れるモテ期というのだろうか。
確かにモテてる。おかしな具合にモテてる。でも、こんなにモテているというのに誰からも羨ましがられない。

これはこれで寂しいもので。

周りからは羨望のまなざしの代わりに、好奇と笑いのこもったアツい視線を投げかけられていた。

S君も大学生だった。
苦学生だった。
S君と知り合ったのは、とある英会話スクール。
当時朝の仕事を終えたらその足で池袋のスクールに通うのが日課だった。

夜のクラスは混んでいるので、私はいつも昼間のクラスを取っていた。
昼間のクラスは空いていて、運がいいと先生と1:1なんてことも…。

ある日、偶然同じクラスを取ったS君。
その日の授業は、隣同士で英語で自己紹介をしましょう、というところから始まった。
S君、のっけから「俺の親は離婚をしていて…」って英語で自己紹介始めた。
内心ドン引きする私。でも顔には出さない。しかし、初対面の人から、しかも英会話の教室でなぜこんなヘビーな話を聞かなければならないのだ私は。

昼間に毎日来ている若い生徒は少ない。
必然的に一度偶然同じクラスを取った人とは仲良くなる。
授業の後などに、そういう仲間でよく喋ったりしていた。ロビーには一日中いてもよく、そのロビーには洋画のビデオが山ほどあったりしたのだ。
暇で貧乏な私達にはちょうどいい遊び場になっていた。

さらに、この英会話スクールは一ヶ月に一回飲み会(スクール主催)があって、先生や生徒ととても仲良くなりやすい。酔っ払いながら英会話が身につくという楽しさから、私はこの教室に通っていたのだ。

いつものようにとりとめのない話をしていたとある昼下がりのこと。
「僕、洗濯物がたためないんだ」
とS君が言い始めた。
「洗濯物?普通に、袖折って、パタパタとこう…(たたむしぐさ)すればいいんじゃないの?悩むほどのこと?」
と、私が答えたら、
「じゃあ、今度服持ってくるから畳んで見せて?」
と…言われた。

ばか。ばか。私のばか。答えなきゃよかったじゃないか。ばか。と、思ってももう遅い。
今の私に出来る事は、聞かなかったことにする事くらいだ。適当に流してなかったことにしておいた。

しばらくS君と鉢合わせる事もなく、洗濯物の話など記憶の彼方に飛んでしまっていたある日のこと。
珍しく夜、英会話スクールに行った。
S君がいた。
一瞬にして洗濯物が頭をよぎる。
夜なので人がいっぱいいる。
なんとなくS君の死角に入ったりする私。
なんということはない努力もむなしくS君、私を発見。
S君は私にこう言った。

「あ、いたいた!あのね、こないだ洗濯物って言ってたでしょ?で、今日持ってきたの。(絶対にカバンに入れて持ち歩いていたに違いない)たたんでくれる?」

耳を疑った。
今ですか。
ここでですか。
何度も言うが今は夜。
夜のスクールはとっても混んでいる。混みあっている。
私に、ここで、洗濯物を、畳めと、あなたは言う。
なんだか子犬のようなきらっきらした目で私を見るS君。

負けた。。。

仕方なく私はそこで服をたたんであげた。
恥ずかしい事この上ない。
一体これ、何の罰ゲーム?

と、さまざまな思考が私の脳裏をよぎる。

あっ・・・。もしかして、この人は私を好きなのだろうか?
もしかして、これは彼なりのアプローチなのだろうか?
アプローチだとしたらひどく方向性を間違ってないか?
そうだよな。気のせいだよな。気のせい気のせい。ははは・・・

と、私は嫌な想像を振り払い、教室へ入って行ったのだった。
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