サボテンとバントライン
ホーイ、サボテン 緑の光 バントラインと僕を照らしてくれ
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KAGEROU ghostwritten by.たいこ 2010-12-12

某所のお遊び企画で書いた小説風読み物。を、こちらにもUP。
われながらよくかけたのだ。
死にたい奴は勝手に死ねばいい。私の人生には関係ないし、人がひとり死んだところで何も変わらない。
あんたが今ここで死んだって明日は相変わらずやってくるし私の明日の予定も変わらない。
だのに。
だっていうのに。
なんで私は今こんなに必死になっているのか。目の前にいるのはガソリンを頭からかぶってプルプル震えている子供。ランドセル背負ってるから多分小学生なんだろう。
子供はプルプル震える手にライターを持っている。
なんでランドセル背負った小学生が、こんな派手な自殺を選ぶんだろう。
あたしは心底うんざりする。うんざりしながら必死に言葉をつむぐ。
「あんたなにやってんのこんなところで!」
「関係ないでしょ!」
「死んだってなんもいいことなんてないんだから!」
「ほっといてよ!とっととかえりなさいよ!」
「あんたねえ、帰れるわけないでしょ?こんな物騒な子供を見なかったことにしたら、私は当分気分が悪いじゃない。あんたがここで死んだら、私はあんたを見殺しにしたことになるじゃないの。とにかくそのライターよこしなさいよ!」
「・・・・・・いいの?みがわりになってくれるの?」
「え、」
「かわりになってくれるならわたしは死なない」
「私が死ぬってこと?」
と、言い終わらぬうちに、そのこどもはよくわからないことを言う。
「これをもらってくれるなら、私死なない。いいよね?」
ライターだ。
「……ライター?これだけ?」
「うん。そう。もらってくれる?」
「……いいけど」
「ありがとう!じゃあ、さよなら!」
言うが早いかその子供は消えてしまった。
嘘みたいな話。
どうやって消えたのかしらあの子。もしかして夢?それとも私の気が狂ってるとか?
しかし、私の手には件のライターがある。ガソリンまみれの危険極まりないライター。
なんだこのライターは。このライターがどれだけ重要だったというのだ?
私の頭の中には湧いて出る疑問でいっぱい。ああ、面倒くさい。
私にはライターなんて必要ないのだ。ガソリンまみれで危ないしこれ。そうだ捨てよう。そうしよう。
危なくないように捨てないとなぁ。水?水に漬ければ大丈夫?そもそもライターのつくりなんてよくわからない。困ったなあ。なんでこんな事になってるの、私。
と、頭の中ではそれなりに忙しくぐるぐると回転していたのだけれど、傍目で見ればライターを握りしめてぼーっとつったっているただの人、である。
今は12月で寒風吹きすさんでいるわけで、ここはマンションの屋上。吹きすさぶ冷たい風に当たりながら月でもぼーっと眺めようと、わざわざ階段を上がって私はここにやってきたわけで、だから当然周りにはだれもいない。不審者にしか見えないけれど、見ている人はいないのでセーフ。
「とにかく捨てよう。」
と、声を出して言う。脳内会議じゃ埒があかない。声に出して少し客観的になってみよう。
ここにいてもしょうがない。今月を眺めたところでぼーっとすることはとても無理だ。
それなら一旦家に帰ろう。そうだ。そうしよう。
屋上へは階段でないと上がれない。だから下りるのも階段。少し開けづらい錆びた扉をひらいて階段を下りる。扉はあまり使う人がいないせいか、蝶番がぎい、と音を立てる。
ぎい
扉を押して中へはいろうとしたら、そこに妙なものがあった。
いや、いた。
「おい、お前一体何をしてくれたんだ!」
妙なものにいきなり怒鳴られて、私は一気にわけがわからなくなる。ああ、せっかくここまで頑張ったのに。
「なんでお前がそれを持ってるんだ!あいつはどこへ行った!」
「あいつ……ってあの小学生のこと?消えた……けど……」
「消えたんじゃない。逃げたんだ。せっかくここまで追い詰めたっていうのに。……おい、お前、ちょっとそれよこせ」
そこでやっと私はその妙なものを観察する。
なんでこれがしゃべるのかがわからない。それは、どう見ても人形だ。お菓子屋の店頭にあるような。薬局の前にあるような。三頭身程度の、テカテカした、薄汚れた、ネコ。多分ネコ。
丁寧に台座までついているのだから、一体いつの間にここに置かれたのかすら不思議な話だ。
だって自分が上がってくる時にはこんなものなかったのだから。いや、それ以上になんでこれがしゃべるのか。面倒。無理。考えるのやめよう。
「これ?ライター?……よこすったって、…どうやって!?」
だって人形なのだ。手なんて動くはずがない。しかしそんなことはお構いなしにそのネコはまくし立てる。
「バカヤロウ!それはライターなんかじゃない!お前、それつけてないよな?」
「こんなにガソリンまみれになったもの、危なくてつけられないでしょう?」
「ああもう、とにかく時間がない。よこせ!」
そのネコが言うが早いか、ライターは私の手から逃れてぽとりと床に落ちる。
「あっ」
ネコからはオレンジ色のケムリが吹き出し、ライターを中心に渦巻いている。
「やっぱり台なしだ。お前、お前あいつになんて言われた」
「みがわりに…とかなんとか…」
「畜生。もう、終わりだ」
「ちょっと、私にわかるように話しなさい」
「そうだな。もう手遅れだ。まったくお前のせいで飛んだことになるぞ。お前どうしたい?生きたいか?死にたいか?」
なんてことを。死にたくなんかないに決まってるじゃないか。なんだこのネコは。
「時間もないしな、生きたいんだったら教えてやるよ。お前が逃がしたアレは人間じゃない。ありゃあなんだ、悪魔みたいなもんだ。あれが生まれてきてから俺たちはずーっと監視していたのよ。その、鍵つけてな。」
「鍵?」
「そう。それな。それのおかげであいつは今まで人間みたいに生きてきたんだ。今日、今日あいつがこの場で死んでいればどうにかなったんだ。あいつはな、自分の炎で自分が焼かれるはずだったんだ今日」
「それを私が止めたと」
「そういうことになるなぁ。お前鍵ほしがっただろ」
「ほしがったというか、、、寄越せとは言いました」
「な。だめだよほしがっちゃ。お前が鍵を欲しがる。あいつが鍵を渡す。鍵は解ける。俺たちが抑えてたものは全部台無しになる。なった。」
「はぁ」
「あいつな、今頃大暴れしてるぞ。終わりだな。皆死ぬ」
「私もですか」
「鍵持ってりゃ死なねーよ。それは抑えこむ代わりに他に干渉されなくなる。だからお前はそれを持ち続けてりゃ誰にも干渉されない。死なない。でもほかは死ぬ」
完全に理解不能だ。きっとこれは夢だ。なんだかわかんないからもう寝よう。夢のなかだけど。
そう私は考えて、強引に眠ることにした。
「なんだかわかんないけどわかりました。とりあえずこれ、持っておきます」
「そうか……生きるのか。それは他の誰かが欲しがらなければ渡せない。お前がここで、自分が所有するって決めたら、それはもうお前のものだ。お前が死にたいなら俺がそれをもらってやれたんだがな。。。まあ仕方ない。お前、それ、つけるなよ。」
私は早く夢から醒めたくて、そんなネコの言葉を背中で聞きつつ、ライターを持って部屋に戻り、寝た。
翌朝、テレビをつけると、テレビ画面には火の海が映っている。
レポーターらしき若い女が叫んでいる。
「昨晩未明から続く謎の出火はとどまるどころか勢いを増しています!非常事態です!あ、きゃあああああ!」
画面の端に写ったものを私は見逃さなかった。そこには、たしかに昨日プルプルと震えていたあの子供がいた。飛んでいた。手には火のつく矢を持って。
「他人が、干渉出来ない……?」
ふと思い立って私は携帯電話をとる。
思いつく先が親しかいないのが少々悲しいところではあるが。電話をかける。
「…え。繋がらない」
電話は呼び出し音すら鳴らない。嫌な予感がする。
「そうだ、コンビニ行こう。」
道行く人々は私のことが見えないように振舞っている。いや、皆知らない人だ。当たり前だ。
言い聞かせてコンビニへ向かう。
パンを握り締め、レジへ。店員は見事に私のことを無視している。
「ちょっと、あの、レジ!会計!」
叫んでみても反応がない。ああ、、、干渉出来ない。。。こういうことか。
目の前が歪んでくらっくらする。なんだろうこの、絶望感?これ絶望?
そこに悲鳴が聞こえる。
「きゃああああああ」
コンビニから飛び出して空を見上げると、そこには件の子供がいる。もうランドセルはしていない。
子供はケタケタと笑いながら火の矢を放つ。火の手があがる。周辺はもう、阿鼻叫喚。
子供が私を見つけた。
「あ、みがわりさん。生きて行くのはたのしいね。ありがとう!」
ケタケタと笑いながら、子供は飛び去っていった。火の矢を放ちながら。
もう面倒臭いことはなにもない。私はそう思った。面倒でない人生なんて地獄じゃないか。
けれど、この先どうしよう?
私は思い立ってあのライターを握りしめる。ネコの言葉が脳裏をかすめる。
「お前、これつけるなよ。」
つけてみたらどうなるのか。今以上に最悪の事態になることはなさそうだ。つけてしまえ。
カチン
ライターの蓋を開ける。
シュボ
ライターの火を、つける。
するとそこから、あの子供そっくりな子供たちが無数に飛び出した。一様にケタケタと笑いながら火の矢を放つ。
「おかあさん!おかあさん!」
口々に私に笑いかける。なんだかこの世はこれで終わりになる予感がした。けれどもうどうでもいいことだ。これをつければ私はひとりじゃない。
シュボ
「おかあさん!おかあさん!」
次の瞬間、私はその子供たちのひとりに矢でいられる。
身を焼かれる熱さ、痛み。
でも、私は死ねない。子供たちが私に出来る干渉はそこまでのようだ。
「最悪の下に、まだ最悪があった。」
私はそんなことをぼんやりと考えていた。
街は、みるみるうちに火に包まれてすべてを燃やし尽くそうとしていた。

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カテゴリー: 日記