サボテンとバントライン
ホーイ、サボテン 緑の光 バントラインと僕を照らしてくれ
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朝にぴんしゃん出掛けて攻めて、暮れて夜には帰らない 2019-12-02

城の南で戦って、郭(とりで)の北で死んだのさ
野垂れ死にしてそのまんま、あとは烏が喰らうだけ
おれのため 烏のやつに言ってくれ
がっつく前にひとしきり もてなすつもりで泣けよって
野晒しのまま ほら、墓もない
腐った肉さ 一体全体どうやって お前の口から逃げるのさ?

(白銀の墟 玄の月 /小野不由美)

 ごきげんよう、たいこです。
趣味は演劇鑑賞、映画鑑賞、読書、アニメ鑑賞、ゲームとかです。
読書はほぼ、小説専門です。ノンフィクションよりフィクションがすきです。
好きな作家を挙げていったらものすごい長くなったので省略。とりあえず、小野不由美が好きです。

 今年の10月と11月に、小野不由美の十二国記シリーズ最新作「白銀の墟 玄の月」が刊行されました。
私がこのシリーズと出会ったのは、2002年8月(娘を産んだ直後だったからはっきり覚えている)。娘は今17歳。というわけで、17年ぶりのつづきのお話だったわけです。

 私の人生の三大没頭して読んだ小説のなかの一つがこのシリーズ。残りの2つは「果てしない物語(ミヒャエル・エンデ)」と「蒼穹の昴(浅田次郎)」。

 お試し感覚で第一巻の「月の影 影の海」を買って、読了後すぐさま本屋に向かって続きを買い、読み終わればまた本屋へ行き、結局シリーズ全て終わるまで、毎日本屋へ通い続けたという・・・。
出産後って感情な部分が過敏になっているので、それもあったのかもしれませんけれど、とにかく久方ぶりに小説の中の世界にどっぷりと入り込んだ作品でした。入ってなかなか戻ってこれない感覚は、果てしない物語以来だったなあ。
とにもかくにも、自分の中では結構強烈な体験として心に刻まれています。

 その、17年ぶりの続きですよ。
続きのお話は全部で4巻。1,2巻と3,4巻が1ヶ月あけて2度に分けて発売されました。
1,2巻の発売日は、あの凶悪な台風が来ていた10月12日で、Twitterではあちこちで「蝕が・・・・・・!」などとつぶやかれておりました。仕方がないよね。泰麒が帰還したのだから蝕だって起きてしまう・・・(笑)


小説自体はとっくに読み終わっていたのですけれど、感想にはどうしてもネタばれが含まれてしまうので。
発刊そろそろ1ヶ月ですし、そろそろ解禁してもいいかなーという感じで書いていきます。ゆえにネタばれ注意です。


 時間は積み重なっていくし、今ある結果はその時間の積み重ねの中で、どのように生きてどのように選択してきたかの現われである。みたいなお話。

 絶体絶命な戴国へ、王様を探し出すために戻る泰麒と李斉。李斉は利き腕を失っているし、泰麒はその力の源である角を失っていて、天上人をして「もはや麒麟とは呼べない」と言われるほどに危うい状況。麒麟がいれば、王気をたどって王様の場所を付きとめられるはずなのだけれど、角のなくなった泰麒には王気も感じられなくなっている。また、彼自身の身を守るための指令も引き剥がされて戻せないまま。
前のお話はまさにこの状況で旅立つところで終わりました。
その旅立ちには、私は絶望しか感じず、「この困難をどう乗り越えるんだ・・・!どう決着つけるんだ!」って不安がいっぱいだったのですけれど。

 今回のお話はミステリー&ホラーな要素が結構多めでした。今、ここで何が起きていて、自分はどうしたらいいかということすら分からないまま話が進んでいく感じは、1作目の「月の影 影の海」の前編を思い出しました。
得たいのしれない不可思議な現象の謎が解けるにつれ、王と泰麒を陥れた阿選の心中も明らかになってきます。
また、泰麒の驚くべき成長っぷりも。

泰麒は決して、最初から最後まであきらめていなかったし、麒麟とは思えないような言動で国を助けようと動きます。
味方すら欺いて。あのスマートさ、10歳で自分の無力を嘆いていた頃から知るこちらからすると「ひょおおおお」ってなります。あの泰麒になるには、蓬莱でのあの最悪な時間が絶対に必要だったと感じる成長でした。

 一方の行方不明だった戴の王、驍宗。彼が登場するのは中盤以降でしたが、つよい。かっこいい。行方不明になってから、自力で脱出するまでのくだりは、まさにスーパー王様という感じで。王に恩義のある民が、沢山の王の部下を匿ったり助けたりしていました。王自身が7年もの時間生き続けていられたのも、その民のおかげなのですけれど。なんかこのくだりは壮絶すぎて本当に泣いてしまう。
余分など一切ない生活のなかで、無理やりにでも供物を作ってそれを弔いとして王に捧げるなんて事、自分に出来るだろうか・・・・・・。本当に、本当に苦悩しながら毎月供物を川に流していたのですよね。そしてそれが、当の王のもとに届いていた。

 そして、道を踏み外してしまった阿選。
謎に包まれていた、彼の凶行の動機も中盤で明かされます。彼自身、こういう理由だとはっきり説明できない感情。
乱暴に言えば、長年切磋琢磨してきたライバルに裏切られて傷ついちゃったって感じなのかもしれません。

ライバルは、決着がつかないからこそライバルでいられるのであって、決着がついてしまえばライバルではなくなる。
負けたほうは、それまで競り合っていたがゆえに、阿選の言葉を借りれば影になってしまう。
人の一生と考えればそれは数十年ですが、彼らは仙であり、神であるわけで、寿命がないのですよね。
それもまた、彼を絶望させた要因なのかもしれません。

阿選がショックを受けたエピソード部分が非常に心に残りました。
また、形は違えど王座を競った相手である李斉が、驍宗に忠誠を誓っている、その対比も趣深いです。
もとより格が違った、というその事実をどう受け止めたかで、その後の明暗がはっきり別れたのが阿選と李斉のように思います。2人とは驍宗と関わった時間も経緯も違いますから、阿選が劣っていたっていうわけでもない。
ただただ、そういうめぐり合わせだったということなのでしょう。
阿選の事を考えると、とても切ない気持ちになります。

驍宗は、王になる前に一度「あなた王じゃないよ」って言われてるんですね。
泰麒が王気の事を理解していなかったことから起こった出来事でしたが、その時に驍宗は戴を去る決意をしていました。
そのまま自分が戴に残っていたら、いずれ新たな王を斃そうと思ったであろう、と。
そうはなりたくないから離れる決意をしたと。
阿選は去ることが出来ず、驍宗は去る決意をした。だからこそ、王は驍宗だったのでしょう。

このお話は兵隊のお話でもありました。
私には兵隊というものがなじみがなさすぎて「もう、ちょっと!」って感じるところも多かったのですけれど。
上官に死ねと言われたら死ぬ的な軍隊の様子は、なかなか・・・これが冒頭の歌につながっていくのですけれど。
なんかもういつになく人が沢山死んで、その死んだ人たちも含めて、沢山の人の想いと犠牲と協力があってこその大団円でございました。
未来のために。自分が見る事はかなわなくとも、この先のこの国の人のよりよき未来のために。
そうやって積み上げてきたものの結果が、このお話の結末であり、またこの先も積み上げていくんだろうなと。

無事に生還した戴王と泰麒ですけれど、そういう沢山の希望を背負って、それでもこの強い王様は長い治世を築くのだろうと、最後のページのイラストでまた感動したりしたのでした。


ほんとはですね、阿選の事を書きたかったんですが、いかんせん小説の内容ボリューム大きすぎて・・・。また機会あったらまとめたいなあ。

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