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A君編 #5

時は過ぎ去り自分の劇団の公演期間に突入。
チケットはしっかりA君に売りつけました。チケットノルマは大変なのだ。

自分の劇団の仲間にも、当然A君の話はしていたわけで…
劇団の仲間でありながら、私のことをまるで手のかかる妹のように見てくれるメンバーたち。私のモテ期に少々安心したのか、劇団内失恋でボロボロになってる私に立ち直ってくれないと困ると思っていたのか、どうもそのA君とくっつけてしまえ的な空気をひしひしと感じていたわけで。

「んなこと言っても結構いい男だったりするんじゃないのー?」
「困るって言いつつ結構嬉しかったりするんじゃないのー?」

というような言葉をかけられていたわけで。

「おまえら実物見たら納得する!本番来るからしっかり見とけ!」

と、啖呵切ったりしていたわけで・・・。
当然劇団員スタッフ一同、密かにA君の登場を心待ちにしていたわけで。
客入れ開始。

私はスタッフと共に音響室で、客の入りを眺めていた。

A君登場。
音響スタッフに「ほら、あれがAだよ」と囁く。
スタッフルームは堪えきれぬ笑いの嵐。

下に下りていって、A君に「来週はよろしくね」と挨拶をし、楽屋に戻る私。
そして楽屋の幕間から、役者のみんなに「あれがAだよ」と教える私。

何かを堪えきれない役者たち。やっぱり嵐。

今思えば、少しひどいことをしたな、という思いがよぎったりよぎらなかったり。
しかし私の友人達の誤解がこの一件で見事に解けたのもまた事実であった。

**

無事自分の劇団の公演も終わり、一週間でささっと仕上げた詩の朗読と2人芝居もなんとか形になり、彼の「詩の朗読会」の本番がやってきた。

場所は、池袋小劇場。

知る人ぞ知る、ちいさくてお手軽な劇場である。
詩の朗読には、確かにちょうどいいサイズの劇場であろう。

舞台に関しても、特に何を作りこむ必要がないのでイスを並べて幕を張ったら仕込み完了。

本番に向けて発声練習をする詩の朗読会のメンバーたち。
私は、それを劇団の出張組となんとなく眺めていた。

舞台の上を走り回っていたA君。
A君は舞台を走り回りながら「あー!、あー!」と発声練習していた。
A君が突然立ち止まった。そして私の方を見て、

「あー!あー!君が好きだー!あー!あー!」

と、言った。

人間、想定外の出来事が起こると笑ってしまうものなのですね。
とっさの判断で私と友人は喫煙所に駆け込んだ。

「今のってさ、私の聞き間違えじゃないよねぇ?」
「うん。確かに私も聞いた」

想定外の出来事ゆえに笑ってしまったのでもないことを友人と確認。
しかし笑いがとまらない。どうしても止まらない。
一服して必死の思いで気持ちを落ち着かせて舞台へ戻ったのであった。

当然、舞台にはほかの役者がたくさんいたのだ。
ある意味彼の勇気ある行動と言えなくもない。
しかし勇気を振り絞る方向を悲しいくらい間違えていることが、
おそらく彼にとっての悲劇なのだろう。
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